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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)144号 判決 1985年9月30日

奈良県奈良市押熊町一九九四の二九

原告

黒田重治

右訴訟代理人弁理士

佐々木俊哲

長野県上田市天神三丁目九番一三号

被告

株式会社カクイチ製作所

右代表者代表取締役

田中健一

東京都中央区京橋一丁目一〇番一号

被告

ブリジストンタイヤ株式会社

右代表者代表取締役

服部邦雄

右被告両名訴訟代理人弁理士

岩崎治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告は、「特許庁が昭和五二年審判第七八六四号事件について、昭和五六年三月三〇日にした審決を取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、被告らは、主文同旨の判決を求めた。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「芯入塩化ビニールホースの製造法」とする登録第四〇六四八〇号特許(昭和三五年一一月四日出願、昭和三八年四月二五日設定登録、なお昭和五二年七月三日存続期間の満了により特許権消滅、以下この特許を「本件特許」といい、この発明を「本件発明」という。)の特許権者であつた。被告株式会社カクイチ製作所は、昭和五二年六月二三日本件特許の無効審判を請求し、特許庁同年第七八六四号事件として審理され、被告ブリジストンタイヤ株式会社は、請求人として右審判に参加した。特許庁は、右審判事件について昭和五六年三月三〇日本件特許を無効とする旨の審決をし、その騰本は、同年四月二五日原告に送達された。

二  本件発明の要旨

比較的長尺の塩化ビニール樹脂管内に流体を圧入して両端を封着する第一工程、同流体封入管の外周面に接着性のよか合成樹脂液を附着せしめる第二工程、その附着合成樹脂液が充分乾燥しないうちにその外周に繊維ブレードを編組套装する第三工程、次いでその外周面に再び接着性のよい合成樹脂液を附着させる第四工程、そして得られたブレード捲き塩化ビニール樹脂管の外周に、押出法により塩化ビニール樹脂の外層を被覆合着する第五工程とから成る芯入塩化ビニールホースの製造法。(別紙(一)の図面参照)

三  審決の理由の要点

1  本件発明の要旨は、前項に記載のとおりである。

2  これに対し、

(一) 実用新案公報(昭三三-一七九九九号、出願昭和三一年一二月一四日、公告昭和三三年一〇月二九日、以下「引用例1」という。)には、「軟質塩化ビニールパイプ中に空気を圧入し、これを外部に逃さないように両端各管孔を盲端に溶着せしめ、枠に捲取したビニールパイブ」が記載され、その効果として「管内に生ずるビンホールや管内壁対向面密着など製造上の欠陥の発見、識別困難な事実に鑑み、案出したもので、完全優良品であることの証明となるほか多少外力が加えられることがあつてもパイプを損傷せしめたり、永久的変形を生ずるおそれがなく、封入空気の存在により対向内壁面を密着させないこと」が記載され、

(二) 特許第七五四二二号明細書(出願昭和二年三月一一日、公告同年一一月二日、以下「引用例2」という。)には、「網入護膜管の製造方法として、外側周に網糸を繞付すべき中芯ゴム管を糸編附機に掛け、心形金属管を挿入することなく、所要の長さの中芯ゴム管の一端を密閉した後、管に空気その他の気体を圧充し、ゴム管に低度の剛性を与えかつこれを順次外周側に糸の編付を行う工程と、この管上に更に未加硫ゴムから成る外側管を被せた後蒸熱和硫型内に装入し、中芯ゴム管内に一層強い圧力気体を吹込み膨圧状態に保ちつつ、ゴムの蒸熱和硫を行う工程からなり、終始圧力気体の充填のみによつて管状ゴムを膨脹状態に保ちつつその全操作を終了すること」が記載され、

(三) 米国特許第二八八八九五四号明細書(特許庁資料館受入昭和三四年一〇月六日、以下「引用例3」という。)には、「押出機から成形押出されたポリエチレンなどの内側チユーブに空気又は他の適当な流体を流入させて内側チユーブの周方向に内圧を与え、その外周に捲取ロールから供給される繊維をラツピング又はブレードして補強層を形成し、加熱器により予熱しスプレーにより液状ボリエチレンを補強層に施し、外被押出機により外被を押出法により形成した積層合成樹脂パイプの製法」が記載され、

(四) 英国特許第七九八六〇三号明細書(一九五八年七月二三日発行、以下「引用例4」という。)には、「マンドレルを使用しないで薄い管厚の内管の変形防止の方法として、内管の内部に空気圧が流体圧を付与すること及びポリテトラクロロエチレン製の内管の外周面に、ネオプレン接着剤を適用した後、その外周に木綿糸のブレードを編組し、更にネオプレン接着剤をブレード編織上に適用した後、ネオプレン外層を被覆するホースの製造方法」が記載されている。

3  そこで判断するに、本件発明の第一工程は、引用例1に記載の両端を封着し、その管内に空気を有圧状態で封入した構成と同一の塩化ビニール管を作る工程であり、引用例1のものが包装を目的とするのに対し、本件発明では、ホースの製法工程中にとり入れられた点で相違する。しかし、引用例1に記載の、封入空気の存在によつてパイプの対向内壁面を密着させず、取扱い中多少外力が加えられても変形を生じさせないとの作用は、本件発明における、管が妄りに凹曲その他歪んで製品化する欠陥を生ぜず、各部均斉したホースがえられるとの作用と一致し、それ以外の目的効果はないから、ホース製造において、その製造の全工程に亘つて、中心管の一端を密封した後他端から流体圧を加える引用例2に記載の製造方法が公知である以上、引用例1に記載のような両端を密封した構成におき替える程度のことは、当業者であれば通常の設計変更によつて容易になしえたと認められる。

また、本件発明の第二ないし第四工程は、引用例4に記載の方法と同一であり、第五工程の押出法による外層の被覆方法は、引用例3に記載の押出法に関する技術と同一である。なお、本件発明は塩化ビニールホースの製法に係るものであるところ、引用例1のものも、塩化ビニール製ホースであることは、明らかである。

したがつて、本件発明は、引用例1ないし4のものから容易に発明することができたと認められるから、特許法二九条二項に規定する発明に該当し、同法一二三条一項一号により本件特許は、これを無効とすべきものである。

四  審決の取消事由

審決は、本件発明の各工程を引用例1ないし4に記載されたものと対比し、右各工程が、これら各引用例のものと同一であるか又はその単なる設計変更の域を出ないものであるとしたが、次の1に述べるとおり、引用例1ないし4に記載された技術事項は、本件発明ないしその各工程とは明確に相違するものであつて、本件発明ないしその各工程を何ら記載又は示唆していないのであるから、審決の右判断は誤つている。また審決は、次の2に述べるとおり、本件発明は顕著な作用効果を奏するのに、この点を看過している。審決は、このような誤認、看過の結果本件発明は、引用例1ないし4のものから容易に発明することができるとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取消されるべきである。

1  本件発明は、特許請求の範囲に記載のとおり、五つの工程から成る芯入塩化ビニールホースの製造方法であり、特に第一工程をベースとして第一ないし第五工程を結合したところに特徴を有するものである。これに対し、引用例1ないし4に開示された技術は、次に述べるとおり本件発明ないしその各工程とは明らかに相違している。

(一) 引用例1について

引用例1(別紙(二)図面参照)に記載されているところは、軟質塩化ビニールパイプaの中に適量の空気を圧入し、その始端bと終端cの管孔をそれぞれ盲端に融着させて圧入空気をパイプa内に封入し、このパイプを端面板を有する枠dに捲収し、その外面を紙に包んで商品となす「軟質塩化ビニールパイプの包装」に係るものであつて、貯蔵、運搬、取扱い中にパイプが損傷したり、永久変形を生ずることを防止すると共に、対向内壁面の密着防止、ピンホール、液体遮断部等の発見をねらつたものである。同引用例には両端を盲端に融着させた長尺塩化ビニールパイプの記載があるだけであつて、このパイプを多層管として採用する本件発明の第一工程を示唆する記載は全くない。

したがつて、本件発明の第一工程が引用例1のものから容易に着想することはできたものとはいえない。

(二) 引用例2について

引用例2に記載されているところは、未加硫ゴム管の一端を密封した後、他端より五ないし八ポンドの圧力を有する空気を吹込み、低度の剛性を与え、これに網糸を編組した後、更に外層ゴム管を被覆し、全体を蒸熱和硫型内に入れて、内管内に八〇ポンドの高圧気体を吹込んで、ゴム層の蒸熱和硫と編組のゴム層との密着一体化を同時に行う編入ゴム管製造法である。このように、引用例2のものは、本件発明と目的物を異にするばかりでなく、本件発明の第一工程における内管とは、その構造においても空気圧のかけ方においても全く相違している。

したがつて、本件発明の第一工程が引用例2のものからも容易に着想することはできない。

(三) 引用例3について

引用例3(別紙(三)図面参照)に記載の層状プラスチツク管は、まず内管を押出機15で形成し、次いでロール16を編み装置へ送り、糸17によつて層12を形成する。次いで加熱装置18によつて補強層を施した内管を加熱し、加熱ずみ組立体は環状押出機20によつて外管13を装置される。そして加熱前又は加熱後に、液体ポリエチレンをスプレーヘツド21によつて(もつともこれは省略することもできる。)糸17又は層12に施す。このように液体ポリエチレンは、編組後に施されるものであるから、引用例3のものにあつては、本件発明の第二工程に相当する工程がないことになる。

更に、引用例3には、「そのような周囲応力は、押出機15の排出側をこえて位置した管体11内のマンドレル、管体内の空気又は他の適当な流体圧によつて、又は適当な方法によつて発生される。」とあつて、内管内に空気又は他の流体圧をかけることが簡単に記載されているだけであつて、その具体的手段については全く示されていないのであるから、内管内への加圧については実質的に記載がないに等しいものである。

(四) 引用例4について

引用例4(別紙(四)図面参照)に記載の可撓弾性ホースは、化学的耐性のあるフルオロエチレンポリマーの薄肉内管10と天然ゴム、合成ゴム等のエラストマー材料よりなる肉厚の外管11を用いたもので、内管と外管は異質材料で構成されており、本件発明とは目的物を異にする。また、この発明は、内管の材質が外管に接着しなくとも、実用性のあるホースが得られることを発見したもので、薄肉内管10を包持するが、この内管10と接着しないようにした肉厚外管11によつて、内管がひしやげないようにしたホースに係るものであり、補強材は必ずしも必要でない(第一、二図)。たとえ補強材を使用する場合(第三、四図)にも、その補強材は、外管の一部となるように用いられるのである。そして、ゴムセメントを用いて補強材を使用する場合にも、右ゴムセメントは内管への接着剤としては作用していない。

また、引用例4には、薄肉内管は、押出成形によつて形成され、外管を組付けるときに右内管がひしやげるのを防止する手段として剛性又は膨脹可能なマンドレル上に内管を支持することが記載されている。もつとも、「他の可能な方法としては、内管内に空気又は水圧をかける方法がある。」との簡単な記載はあるが、その具体的方法は全く示されていない。むしろ、すべての実施例において、先ず薄肉内管をマンドレル上に支持してその上に補強材を施し、又は押出機によつて外管を被覆する時に薄肉内管のひしやげを防止し、その後蒸熱加硫をし、マンドレルがその後初めて外されることからみて、引用例4には、マンドレルを使用して内管のひしやげを防止する方法は記載されているが、内管内に空気圧又は水圧をかける方法については記載されていないに等しいものというべきである。

したがつて、本件発明の第二ないし第五工程が、引用例3、4から容易に着想できるものではない。

2  本件発明の作用効果について

本件発明は、各工程の結合によつて次のような顕著な作用効果を奏するものである。

(一) 第一工程で塩化ビニール樹脂管に流体を圧入して両端を封鎖してから以下の工程に移行するので、製造途中、特に第三工程でブレードを編組套装せしめるとき及び第五工程で外層を押出被着せしめるときに、外力ないし外圧を受けて内層となるべき塩化ビニール樹脂管がみだりに凹曲その他歪んで製品化する欠陥が生ぜず、各部均斉した優良な長尺合成樹脂ホースを得ることができる。

(二) <1>第三工程でブレードを編組套装する前後の第二、第四工程で酢酸ビニールのような接着性のよい合成樹脂液を附着させ、しかもブレードの套装は前記合成樹脂液が未だ充分乾燥硬化しないうちに行われるので、ブレード芯はこれら二回の合成樹脂液の塗布によつてその中間に埋没することとなり、したがつて層間におけるブレード芯を正確な位置に各部均斉状態下で強固に定着する。そしてブレード芯は、内方にあつてはビニール樹脂管と、外方にあつては外層とそれぞれ合成樹脂液によつて強く結合してホースの耐圧性を向上するのである。<2>また、これら内外両層は、共に同じ塩化ビニール樹脂材にしたので、両層の可塑化傾向や熱による伸縮歪みに差を生ずることがなく、使用上のいかなる条件下にあつても、常に一様に耐性を示し、ホースの寿命を長く保つことはもちろん破裂その他の障害を防ぐのに役立つ。

(三) 本発明によると、強度及び形状が一様で、高度の耐圧性を持つた芯入塩化ビニールホースの比較的長尺のものが簡単なプロセスにて半連続的に量産することができる。

第三  請求の原因に対する被告らの認否及び主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

同四の主張は争う。審決には原告が主張する違法の点はない。

二1  原告の引用例1ないし4に関する主張は以下のとおり失当である。

(一) 引用例1、2の主張について

本件発明と引用例1とは、共に塩化ビニールホールに関するものであり、その技術分野が同じであることから、技術的に互換性があり、本件発明の第一工程に関し、引用例1に開示の技術すなわち「圧力流体をチユーブ内に封入しておくための内圧保持手段として、チユーブの両端を封着する」との技術を、引用例2の中芯管に採用して両端を封着した圧力流体封入管を用いることは、設計的事項にすぎず、この点の審決の認定に誤りはない。

引用例2は、ゴムホースに関するものであるが、ゴムホースと塩化ビニールホースとは技術分野を同じくし、その製造工程において最終工程で加硫するか否かを除き、相互に転用可能な技術であり、産業上の利用分野でも塩化ビニールホースは、使用上の信頼性がゴムホースより若干劣るものの、これと互換性がある。このことは、日本工業規格(JIS)によれば、農業用噴霧機ビニルホース(K六七三三)の品質は外観上、内径、厚さとも均整で屈撓性に富み、使用上有害な傷、気泡、その他の欠点のないものでなければならないとされ、品質の測定及び試験方法に関しては、内径及び厚さの測定、水圧試験、各層間の剥離試験ともゴムホース物理試験方法及び加硫ゴム物理試験方法に規定する方法によるとされ、ゴムホースと塩化ビニルホースとは工業規格上特段の差異はないことに照らしても明らかである。

(二) 引用例3の主張について

審決は、本件発明の第五工程の押出法による外層の被覆方法が、引用例3によつて公知であるとした上右工程が引用例3のものと同一であると認定したのであり、右引用例を本件発明の第一、第二工程について引用したものではない。

(三) 引用例4の主張について

そもそも、ホースは可撓性と耐圧性という二律背反の性能が要求されることから、耐圧性を向上させるための補強を施す場合には、ホースの可撓性に悪影響を及ほさない配慮を要する。けだし、内層管と外層管との間に補強層を介装するときにある種の接着剤を用いると、ホース自体は固く固結し耐圧性は増大するが、堅牢ないし堅硬なホースとなつてしまい、ホース最大の特性である屈撓性が失われ、硬質塩化ビニール管や金属製管のようになり、もはやホースとはいえないからである。

そこで、内外管ブレード補強層の間の結合は、柔軟結合が望まれ、この結合状態を引用例4では、摩擦的結合の増加と説明しているのであつて、ある種の接着剤のように、化学的反応を伴つてコチコチに硬化するものを念頭においた説明である。したがつて、補強材を使用した場合でもゴムセメントは内管への接着剤としては作用するものでない旨の原告の主張は全く誤つている。

2  本件発明の作用効果に関する原告の主張も以下のとおり失当である。

(一) 原告の作用効果(一)の主張について

一般にこの種のホースにあつては、ブレード編組時に内管に加えられる外力は補強繊維の張力による締付力であるから、通常のビニール内管は、特に内圧を加えなくても十分にこの締付力に対抗できる。逆に内圧を加え過ぎると、内管は未だブレード編組がされていないので膨満変形するおそれがある。

ところが、押出機による外層被覆の押出時にブレード編組済の内管に加えられる外力は、押出機の背圧であつて、平方センチメートル当り一〇〇kg前後に達するものであるから、この時点では内管に平方センチメートル当り二kgないし五kgの圧力を加えることが望ましいとされているのである。

すなわち、引用例2に開示されているように、第一工程の内圧を五~八ボンド(平方センチメートル当り、〇・三五kg~〇・五六kg)とし、第五工程の内圧を八〇ボンド(平方センチメートル当り、五・六二kg)にするのが望ましく、本件発明のように全工程中、一定の圧力を内管に加えておくことは、第一工程の未だ補強ブレード編組がなされていない裸の内管に内圧をかけることを意味し、必然的にその内圧は内管が膨満変形しない程度の低圧でなければならず、常圧空気を封入して製造したホースと格別の差異がなく、高圧に耐え得るホースを得ることは期待できないというべきである。

このように、全工程を通じて内管の内部圧力を一定に保持すること、換言すれば第一工程で流体を圧入して両端を封入することは、技術的に無意味である。

(二) 原告の作用効果(二)の主張について

一般に合成樹脂液のような液状接着剤の塗布に際し、ブレード芯が埋没する程の厚さに塗布することは、液状接着剤の滴の垂れ落ち、垂れ下がり、それに伴う偏肉などを考慮すると現実性がなく、しかもその接着強度からみても、「ブレード芯は合成樹脂液の中間に埋没することとなり、層間におけるブレード芯を正確な位置に各部均斉状態下で強固に定着する」との趣旨の原告主張の作用効果を奏するとは考えられない。

また、この種のホースに使用する液状接着剤は、湿潤状態のときは接着効果がなく、溶剤の気化蒸散、すなわち接着剤の乾燥によつてはじめて接着効果を発揮するものであるから、液状接着剤の塗布工程と外層被覆工程との間に液状接着剤の乾燥工程を導入しないと接着効果は期待できない。

仮りに、液状接着剤が十分に乾燥しないうちに塩化ビニール樹脂の外層を被覆すると、接着剤の溶剤はブレード編組と外層被覆との間で蒸散気化し、外層被覆に阻れた溶剤は外部に蒸散できずにブレード編組と外層被覆間に滞溜して充満し無数の気泡を発生させ、この気泡はブレード編組層と外層とのセパレーシヨンを惹起して製品であるホースの品質を著しく劣悪化する。

一方、第四工程の合成樹脂液付着工程と第五工程の外層被覆工程との間に乾燥工程を導入すると、気泡発生は防止できるけれども、塗布された接着剤は既に十分乾燥しているから、ブレード編組層の外表面に乾燥された合成樹脂の薄い皮膜が形成されているのみで、ブレード編組層と外層被覆との結合は、主として外層被覆押出時の押出圧力によつてなされるのである。

この結合状態はまさに引用例4に開示する「そのゴムセメントは補強ブレードの一体的な結合(bind)を助長し、またブレードが後から被せるゴムその他の弾性材料によりよく固定するのに役立つが、しかし摩擦的結合力の増加の結果生ずる付着を除いては接着(bond)に寄与しない」という状態であつて、原告主張の「ブレード芯は、内方にあつてはビニール樹脂管と、外方にあつては外層とそれぞれ合成樹脂液によつて強く結合する」という作用効果、特に「ブレード芯と外層とが合成樹脂液により強く結合する」という作用効果は、技術的にみて不可解であり、ましてや合成樹脂液として酢酸ビニールを使用した場合には強固な接着は到底期待できない。

(三) 原告の作用効果(三)の主張について

右(一)、(二)に主張したところから明らかなとおり、原告主張の本件発明の作用効果は、ホース製造技術からみて奇異なものであり、本件発明の方法により、ホースに要求され、また日本工業規格にも規定されている内径、厚さともに均整で屈撓性に冨み、気泡その他の欠点のないものが量産できるとは考えられない。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1  審決取消事由1の主張について

(一)  本件発明の第一工程と引用例1、2について

(1) 本件発明の第一工程が請求の原因二に記載されたとおり、「比較的長尺の塩化ビニール樹脂管内に流体を圧入して両端を封着する。」ものであることは当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第六号証によると、引用例1の考案は、押出成形によつて製造される軟質塩化ビニールパイプの包装に係るものであり、これには、その構成として、「軟質塩化ビニールパイプは、往々にして管壁にピンホールを生じ、あるいは管内壁対向面が密着して液体遮断部ができるなどの欠陥があり、殊にこれらの欠陥は発見、識別が至難であることに鑑み、この欠陥を解消すべく、軟質塩化ビニールパイプの中に空気を圧入し、これを外部に逃さないよう始端と終端との各管孔を盲端一体に溶着させ、これを端面板を有する枠に捲成する。」との趣旨の記載があり(一頁左欄一一行-右欄四行、右欄一三行-一七行)、右構成による効果として、「貯蔵、運搬その他の取扱いに多少外力が加えられることがあつても、パイプを損傷させたり、永久変形を生じさせる虞れがなく、したがつて、封入空気の存在によつてパイプの対向内壁面を密着させない。」との趣旨の記載がある(同右欄六-一一行)ことが認められる(別紙(二)図面参照)。

このことからすれば、引用例1には、長尺の軟質ビニールパイプに空気を圧入し、これを逃さないようその始端と終端との各管孔を盲端一体に溶着することによつて、パイプに外力が加えられても、パイプの対向内壁面を密着させないよう形体を保持する技術が開示されているものということができる。

(3) 次に、成立に争いのない甲第五号証によると、引用例2の発明は、内外ゴム層の中間に編網糸を介在させて成る網入ゴム管の製造に係るものであり、これには、「内層形成用未加硫ゴム管内に空気その他の圧力気体を圧充し、内層用未加硫ゴム管に低度の剛性を与え、かつこれを垂直に保ち、順次その外側周に網糸の編付を行う工程と、次いで網糸を繞編した内層用ゴム管上に更に未加硫ゴムより成る外層用ゴム管を被覆した後蒸熱和硫型中に装入し内層ゴム管内に一層強い外圧気体を吹込み、外層管の内面を型面と密接すべき膨圧状態に保ちつつ、蒸熱和硫を行う工程との結合によつて網入ゴム管を製造する方法」が記載され(九三頁発明の性質及び目的の要領の項、及び九五頁四行-八行)、右加圧について、「網糸繞編時及び外層用ゴム被覆時に内層用未加硫ゴム管に剛性を付与するに当つては、具体的には任意の長さの内層用未加硫ゴム管の一端を密閉し、他端より管内に約五ないし八ポンド程の圧力を有する空気を吹込むこと」が記載され(九四頁三-七行)、右方法による効果として、「内層用未加硫ゴム管の形体保持をするのに、金属性パイプを使用していた従来の方法に比して、操作が簡便になり、長尺ホースが製造できる。」との趣旨が記載されている(九四頁一五行-九五頁二行)ことが認められる。

このことからすれば、引用例2には、内外ゴム層の中間に編網糸を介在させた網入ゴム管の製造において、内層形成用ゴム管に網糸を繞編し、更にその上に外層形成用ゴムを被覆するに当たり、内層形成用ゴム管の形体保持のために空気を圧入して剛性を付与する技術が開示されているものということができる。

(4) また、成立に争いのない甲第九号証によれば、昭和三五年二月二五日株式会社日刊工業新聞社発行、水谷久一監修「プラスチツク加工技術便覧」二六〇頁、二六一頁には、「管の中間部に金属線又は繊維を編組した層を入れ強度を与えた軟質PVC耐圧管は、通常次の三工程すなわち、<1>軟質PVC内管を押出成形し、<2>内管の上に金属線又は繊維を編組機で編組し、<3>これに軟質PVCの外管を押出加工により被覆させる工程によつて製造される。」との趣旨の記載があることが認められ、このことからすると、右の技術事項は、本件発明の特許出願前周知であつたことが認められる。

(5) ところで、塩化ビニールホースとゴムホースとは工業規格上特段の差異がないことは原告の明らかに争わないところであり、他に特段の立証がないので、両者の製造方法は技術分野を共通にするものであると解すべきところ、前記(1)ないし(4)に述べたところから明らかなとおり、本件発明と引用例2のものとは、内層を形成する軟質の管を予め成形し、その外周面に繊維ブレードを套装し、その上に外層を被覆する工程をもつ点で共通するものである。それ故に、内層形成用未加硫ゴム管への繊維ブレードの編組套装及び外層用ゴムの被覆に当り、内層を形成する軟質のゴム管の形体保持のためこれに空気を圧入して剛性を付与するという引用例2に開示の技術を、本件発明の芯入塩化ビニールホースの製造の際に適用することは、当業者において容易になしうることと解すべきである。そしてその際に、空気圧入の手段として、パイプの両端を封着するという引用例1に開示の手段を採用することは、引用例1の右手段の目的が軟質塩化ビニールパイプの形体保持の点にあることからすれば、たとえ引用例1の具体的手段や目的に関する原告主張の相違点を考慮に入れても容易になしえたものと解するのが相当であり、本件発明の明細書(成立に争いのない甲第二号証)を検討しても、この点に格別の困難性があつたことを窺う特段の事情を見出すことはできない。

そうすると、本件発明の第一工程は、引用例1、2に開示された技術から容易に想到できたものというべきである。

なお、原告は、引用例2について加圧方法の相違を主張するが、これは、ゴムホースの製造に係る引用例2のものは和硫処理を行う必要があることに基因するものであるから、この点は、前記判断を左右するものではない。

(二)  本件発明の第二ないし第四工程と引用例4について

(1) 本件発明の第二ないし第四工程が請求の原因二に記載されたとおり、「第二工程、流体封入管の外周面に接着性のよい合成樹脂液を附着させる。第二工程、その合成樹脂液が充分乾燥しないうちにその外周に繊維ブレードを編組する。第四工程、その外周面に再び接着性のよい合成樹脂液を附着させる。」ものであることは当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第七号証によると、引用例4の発明の実施例Ⅱには、鋼製マンドレルに套載したポリテトラフルオロエチレン管にネオプレンゴムセメントを施し、これに綿糸よりなるブレード編組を二回行い、ブレード編組の都度後からネオプレンゴムセメントを施し、その上に外層となるネオプレンゴムを押出し被覆し、次いで加硫処理を施し、最後にマンドレルを取外して可撓弾性ホースを製造する方法が記載され(三頁二七行-四〇行、なお別紙(四)図面参照)、また同引用例には、「補強材を薄肉管上に直接設けてもよいし、あるいは薄肉内管の表面に設けたゴムシート又はセメント被膜上に設けてもよい。ゴム又はセメントは、補強ブレードの一体化を助長すると共に、右ブレードを後で組付けられるゴム又はエラストマー材に一層しつかりと固定するために役立つが、内管に対する接着剤としては作用しない。もつとも結果的には摩擦的結合力を増加させることにはなる。」との趣旨の記載がある(二頁一二二行-三頁六行)ことが認められる。そして、右にいう一ゴム又はゴムセメントは補強ブレードの一体化を助長する」とは、ゴム又はゴムセメントが補強ブレードの糸相互を接着し一体化させる作用を果すことを意味していると解されるから、前記引用例4の実施例Ⅱにおいて、ポリテトラフルオロエチレン管に施されたネオプレンゴムセメントは、未だ充分に乾燥せず接着性を有するうちに、その外周にブレード編組が行われるものとみるべきである。

そうすると、引用例4の実施例Ⅱには、可撓性ホースの製造に当たり、ポリテトラフルオロエチレン管の外周面にネオプレンゴムセメントを付着させ、このネオプレンゴムセメントが充分に乾燥しないうちに、その外周に繊維ブレード編組を行い、次いでその外周面に再びネオプレンゴムセメントを付着させ、その上にネオプレンゴムを押出し被覆する工程を行うことが開示されているということができる。

(3) そこで、前記本件発明の第二ないし第四工程と右引用例4の開示技術とを対比すると、両者は使用材料において相違するものの、その工程には異るところがない。

もつとも、引用例4に開示の前記方法で製造されたホースは、前述のとおり繊維ブレードと外層とはゴム又はゴムセメントで接着一体化しているものの、内管と繊維ブレードとは一体的に接着しておらないことが前掲甲第七号証により明らかであり、この点で本件発明のホースとは相違する。しかし、右甲号証によると、引用例4には、「過去において化学的耐性を有する内管を、外管に接着した可撓弾性ホースが知られているが、このホースは、……接着された内管と外管との両材質間の伸縮性の差に基づいて、曲げたときに内部応力が生じ易い欠点があることに鑑み、本発明にあつては、内管に化学的耐性の高いフルオロエチレンポリマーを用い、外層と接着一体化させない。」との趣旨の記載がある(一頁一一行-二頁二一行)ことが認められ、このことからすれば、引用例4のものは、内管と外管を接着する技術の存在を当然の前提とし、その場合の欠点を解決するために、敢て両者を接着させないものであるということができる。(なお、内管と外管とを一体化する点は、引用例2、3にも示されている。前掲甲第五号証九四頁一二-一三行、後述の甲第八号証二欄四三行-七一行参照。)

このように内管と外層とを結合一体化することが本件発明の出願前に広く知られていたというべきであるから、引用例4のものが前認定のとおり、内管及び外層の材質並びに接着剤を前認定のとおり選定した上、繊維ブレードと外層とのみを接着させ、内管と繊維ブレードとは敢て接着させないものである以上、この引用例4の工程すなわち、内管の外周への接着剤を付与し、右接着剤が充分乾燥しないうちに繊維ブレードを編組し、その上への接着剤を付与する工程を経て、内管と繊維ブレードをも結合させることは、当業者において必要に応じて適宜選択できる事項であるというべきである。

なお原告は、引用例4には、内管のひしやげを防止する手段としてマンドレルを用いる方法しか示されていない旨主張する。なるほど前掲甲第七号証によると、引用例4の実施例はすべてマンドレルを使用しているが、同引用例中には「マンドレルを用いないで、薄肉の内管がひしやげるのを防止する他の可能な方法としては、内管内に空気圧又は液体圧をかける方法がある。」との記載もある(二頁一一八行-一二一行)ことが認められるから、原告の右主張は失当というほかはない。

(三)  本件発明の第五工程と引用例3について

(1) 本件発明の第五工程が請求の原因二に記載のとおり、「(第四工程により)得られたブレード捲き塩化ビニール樹脂管の外周に、押出法により塩化ビニール樹脂の外層を被覆合着する。」ものであることは当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第八号証によると、引用例3には、ポリエチレンを押出成形して管体を作り、この管体の周囲に繊条を編み込み、加熱後液状ポリエチレンをスプレーし、次いでその上にポリエチレンを押出機を用いて被覆する可撓性の層状プラスチツク管の製造方法が記載され(三欄二〇行-四八行、別紙(三)図面参照)、またその際右繊条を予め液状ポリエチレンで処理しておくことにより、管体と繊条編み層と被覆層との間にすぐれた機械的接合が相互に行われることが記載されている(二欄四三行-七一行)ことが認められる。

このことからすれば、引用例3には、可撓性のポリエチレンホースの製造において、外層を押出機を用い、押出法によつて被覆合着させる技術が開示されているということができる。

(3) そうであるとすれば、本件発明の第五工程と右引用例3に開示された技術とは、使用する原料樹脂が相違するものの、工程そのものは同一である。(因みに、前示の引用例4に認定の事実からも明らかなとおり、引用例4の実施例Ⅱにおける外層の被覆方法は、押出法によるものであり、これもまた本件発明の第五工程と同じである。)そして、ポリエチレンホースを製造する際の外層被覆技術を、塩化ビニール樹脂を用いてホースを製造する場合に適用することは、当業者において容易に想到できることであると解するのか相当である。

2  審決の取消事由2の主張について

(一)  原告が、本件発明の作用効果として(一)において主張するところは、塩化ビニール樹脂管に流体を圧入して形体保持を行うことによる効果であり、この点は、引用例2について詳述したところからも明らかなとおり、同引用例においても当然に生ずる効果であつて、本件発明に特有のものとは考えられない。

(二)  原告が、本件発明の作用効果として(二)ののに主張するところは、主として第二ないし第四工程に基づくものであるが、前認定のとおり引用例4のものも同様の工程を経るものであることからすれば、これと同様の効果を奏することは明らかであり、格別のものとは考えられない。

また、同(二)の<2>に主張する効果は、内管及び外層が共に塩化ビニール樹脂で構成したことに基づく効果であるところ、前記1の(一)の(4)に述べたとおり、内管、外層共軟質塩化ビニール樹脂で構成したホースが、本件発明の出願前周知であつたことからすると、右効果もまた本件発明に特有のものということはできない。

(三)  原告が本件発明の作用効果として(三)において主張するところは、前記1の引用例2ないし4について述べたところから明らかなとおり、右各引用例のものが奏する効果と同様のものであり、格別なものとはいえない。

3  以上のとおりであるから、本件発明は引用例1ないし4のものから容易に発明できたとする審決の判断に誤りはなく、原告の審決取消事由はいずれも理由がない。

三  よつて、本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧川叡一 裁判官 松野嘉貞 裁判官 清野寛甫)

別紙(一)

<省略>

別紙(二)

<省略>

別紙(三)

<省略>

別紙(四)

<省略>

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